文: 籔谷智恵 写真: 甲田和久
京都御所に並行する通りにあるゼロ・ウェイストな量り売りのお店「斗々屋(ととや)」。
安居さんとの待ち合わせでうかがった店舗では、お米やナッツ、海苔などの乾物、お酢やソースなどの液体まで、量り売りされていて、包装のゴミが出ません。また容器と会計用のはかりはセンサーで繋がっていて、スムーズに買い物ができるよう設計されています。
「サーキュラーエコノミーという言葉は耳慣れないかもしれませんが、物を捨てず大切にする価値観はずっと昔からあったもの。古き良き価値観を現代の技術でアップデートするところにこれからの価値がある。CEは人と人、人と自然との繋がりを取り戻してくれる、皆にとって良い仕組みづくりだと思います」
サーキュラーエコノミー(CE)とは、直訳すれば「循環型経済」。簡単にいうと「廃棄が出ない仕組みづくりを行うことによって、経済と環境両方にメリットをもたらす新しい経済モデル」です。
現在の経済システムは資源を取ってつくって捨てる直線的なもの。リサイクルやリユースは行われていますが、あくまでも大量生産・大量消費で生じるゴミに対しての対処法な立ち位置です。CEでは、『はじめからゴミが出ないように』ビジネスモデルを設計します。
たとえばはかなくなったジーンズは捨てるのではなく、企業に返却してもらい、リサイクルで素材化して再生産する。返却してもらえるように支払いは月額制のリースやデポジットに。再生産しやすさを考えて革のラベルはなくしファスナーはボタンに。そうして廃棄が出ないよう仕組み全体を設計するのが最大の特徴です。
これまでの社会では、長期的というよりは短期的な経済合理性に偏った仕組みづくりがされてきました。その結果、経済的には豊かになった一方で、持続性が危ぶまれるほど環境負荷が高くなってしまった。また人が豊かに生きるために大切なことは、経済合理性だけでは判断できません。
profitだけじゃなくPlanetとPeopleの3つのP、これらのバランスがとれた状態が重要で、CEはその実現のための手段です。
今キャンプや山登りを楽しむ人が増えていますが、それはお金のためではなく幸せのための行為ですよね。自然環境が悪化すればそれも不可能になってしまう。
CEは私たちが心地よく感じる状態と経済を両立する方法論。けっして経済発展を否定するものではなく、CEによる無駄の見直しの結果、増収やコスト削減に繋げている企業もたくさんあります。
バタフライダイアグラムはCEの実践に優先度の高い方法を教えてくれるものです。
外側にいくほど環境にも経済にも負荷が大きく、たとえばリサイクルには加工施設や輸送、エネルギーが必要ですが、修理して使い続けられればそれらは必要ありません。内側にある方法で解決できないか、順に検討していくことで最適な方法を採ることができます。
右側に技術系のサイクル、左側に生態系のサイクルが分けてあるのもポイントです。自然素材と化学素材が混ざっていると再資源化が難しくなりますが、綿や麻などの天然繊維100%であれば服も土に還すことができます。自然素材とそうではないものをしっかり分け、化学的なものであっても再資源化しやすいよう単一性を高めていくことが今進められています。
あらゆるものを資源とするCEの発想は持続的なビジネスやライフスタイルと相性が良く、新型コロナウイルスのパンデミックやロシアのウクライナ侵攻が起きた現在ますます注目を集めています。
2021にサーキュラーエコノミー(CE)についてまとめた本を出版した安居さん。本以外の形でもCEを伝えたいと2022年には「八方良菓(はっぽうりょうか)」という屋号で京都の食品企業のロス食材を使ったシュトレンの開発と販売を始めました。
「課題に向き合うほど地域の有機的な繋がりができて、やればやるほどおもしろくて。老舗こそ変化に敏感で、革新的で持続的なものへの関心が高いとも感じます」
そうした活動から「おもしろい若者がいる」と京都出身の音楽家・くるりの岸田繁氏に紹介され、くるり主催のフェス「京都音楽博覧会」では「資源がくるりプロジェクト」を共同開催。 「八方良菓の京シュトレン」原料の約30%にロス食材を使用。製造は市内の福祉作業所が担当している。京都の料理人らとロス食材でつくるアイスクリームを開発・販売し、食べ残しなどの生ゴミを堆肥化するコンポストを会場の梅小路公園内に設置しました。
「まず音楽イベントで実証実験をして、その後は飲食店や商店街で出る生ゴミを投入していく予定です。小さく始めて広げていくのもCEらしいやり方です」
安居さんがCEに興味を持ったのは、世界初のCEジーンズ「マッド・ジーンズ」や自分で修理できるスマートフォン「フェアフォン」など、オランダにおける様々なCE企業の取り組みが革新的で楽しそう!とワクワクしたから。
「厳密な定義づけを気にする人も多いかと思いますが、2050年までに全てをCE化すると掲げているオランダ政府は『それがどんな社会なのかはわからない』とも言っていて。こうじゃなきゃ、これはだめというよりも、良いと思うことからまずやってみるほうがいいと思うんです」
地球に良いことはきっと心にも心地良い。まずはワクワクすること、自分でできることから、一緒に一歩踏み出してみませんか?
松山 サーキュラーエコノミー(CE)の実践について考えた時、一般的には「企業に戻す」流れがないことに気づきました。らでぃっしゅぼーやでは自社配送網を持っているので、エコキッチン倶楽部をはじめとする循環型の活動ができています。さらに踏み込みたい場合には全国規模が適さないこともありますが、まずは参加や気づきのきっかけになれたらと思っていて。
安居 確かに地域でなければできないこと、地域でやるほうが適したことがある一方、全国規模ならではのインフラや情報網も大切です。布団の丸洗いを伏流水と石鹸だけでやってくれるサービスも美濃焼の食器を一部再生原料でつくる「トリップウェア」も初めて知りました。凄い!
松山 今後どうしたらもっとCEが浸透していくでしょうか?
安居 オランダはCEが進んでいる国として取り上げられますが、国民の大多数が概念に詳しいわけではないんですよ。アクティブに取り組んでる人がいて、一般の人は自然とそれを使っているのが近いんじゃないかな。
松山 確かに今回あらためて、廃棄が出ないようにはじめから全量買取の作付け契約を行い、段ボールもリユースしている 「めぐる野菜箱」はCEだったんだと気づきました。使うサービスが自然とそうなっていることが理想です。
安居 あとはやってみてラクになる、楽しい、おいしい…実感のある体験ができるといいですよね。
松山 体験するって大切ですね。その体験をどうつくっていけるか、これからまた考えていきたいと思います。今日はありがとうございました!
ドイツ・キール大学修士課程卒業。2015年~2020年オランダ・ドイツを拠点にCEの視察イベントやセミナーを開催、2021年より京都市在住。著書に「 サーキュラーエコノミー実践:オランダに探るビジネスモデル」