海と山の恵みが詰まった、有機的な生命のかたち

ふぞろいが生まれる現場

真珠編

海と山の恵みが詰まった、有機的な生命のかたち

身につける人の心に寄り添うように輝く真珠。品格を感じさせる光沢とかたちは、人と自然がともにつくる、真珠独自の形成原理から生まれるものです。その真珠が2019年から、母貝であるアコヤ貝の大量へい死という困難に見舞われています。日本一の真珠生産量を誇る愛媛県に、柑橘でおなじみの無茶々園さんを訪ねました。 ※農林水産省:令和2年漁業・養殖業生産統計

文: 籔谷智恵 写真: 甲田和久

山に海が入り込むような明浜の地形。佐藤さんの工房は入り江にできた集落の海岸線にあります。

いきものがつくる、個性豊かな宝石

リアス式海岸とみかんの段々畑が近接する、愛媛県西予市明浜町。海が目の前に広がる作業場にうかがうと、無茶々園の佐藤和文さんが真珠の選別作業をしていました。

「手のひらと指の感触で、正円かどうかわかります」

佐藤さんは宝石鑑定士の資格を持つ、稀有な真珠の養殖家です。真珠入札会の評価委員もつとめる確かな目で、真珠づくりから宝飾品加工までを一貫生産。有名ブランドにひけをとらない高品質の真珠を、生産者ならではの価格で販売してきました。

佐藤さんがジュエリーとして扱う正円・美麗な高級真珠は、核入れした全体数のわずか2割ほど。※2020年度無茶々園実績・年によって数字にバラつきあり

宝飾品としての希少性を感じさせる数字ですが、業界としての明確な規格がないのも真珠の特徴だといいます。

「真珠は、いきものがつくる数少ない有機質の宝石です。ダイヤモンドのようにカッティングを施さなくても、そのままで美しいんです。ひとつひとつに個性があるのが魅力で、厳密な規格化が難しい理由でもあります」

それぞれに個性の感じられる真珠たち。これでもふぞろい(!)

二重の困難と新しい挑戦

真珠は、貝が入り込んできた異物を取り込もうと、貝の内側の成分を分泌する働きによってできるものです。形成される真珠層は2000~3000層にもなり、ひとつひとつの層が光を乱反射することで、真珠ならではのまろんとした品のある光沢が生まれます。

「急激な温度変化や赤潮、フジツボの付着など、アコヤ貝がストレスにさらされると真珠の形が歪んだり、羽やツノといった突起が生じたりします。だから移動させたり貝の付着物を落としたり、貝が快適に過ごせるように、できる限り細やかに世話をするのが僕らの仕事なんです」

フジツボそのほか付着物を丁寧にこそぎ落とす「貝掃除」。陸上での掃除は年に3回ほどですが、船の上での掃除は10日に1回。海水温が高くなれば低いところへ、赤潮が発生すれば避難と、常に海の状態と貝の様子を気にかける、子育てのような仕事だそう。

その真珠が今、アコヤ貝の全国的な大量へい死に直面しています。

へい死とは、真珠が形成される前に何らかの理由で弱った貝が死んでしまうこと。無茶々園でも2020年の母貝仕入量は平年の約1/3ほど、2021年の生産量は平年の1/4~1/5になる見込みだといいます。

いっときは新型コロナウィルス禍の影響で入札会も中止や延期・縮小するなど、厳しい状況が続きました。
※大量へい死の影響のない2018年アコヤ貝の仕入れ量30万貝に比べて、影響のある2020年の仕入れ量は5~10万貝。母貝アコヤ貝の仕入れから核入れ、真珠形成までは約3年かかるため、大量へい死による真珠生産量への影響はこの先より顕著になる見込み。
輸出が約8割を占める真珠産業にはリーマンショック等の影響も大きく、愛媛県に約600軒あった真珠養殖業者はここ20年で約250軒に減 少しています。

そんななかでも佐藤さんは前向きに、真珠養殖存続のためにも新事業に挑戦。片道4時間(往復8時間!)かけて数ヶ月、高知大学の研究室に通って技術を習得し、「すじ青のり」の陸上養殖を始めたのが2020年秋のことです。

水中にいる「すじ青のり」は自由にうごきまわる動物のようで、乾燥して粉末になったお馴染みの青のりとは全く違う姿を見せてくれます。

「もともと食べ物もやりたいとは思っていたんです。真珠はそう何度も買われるものではないので、常に新しいものづくりをってプレッシャーがあって。でも食べ物は美味しかったらリピートしてもらえますよね。今は青のりを育てるのもすごく楽しくて、真珠と両方やる良さを感じています」

香り高いすじ青のりは、透き通るような「きれいな」味。繊細な風味に、宝石を扱う佐藤さんならではの仕事が表れています。

「きれいで見ていて飽きないんですよ」と佐藤さん。技術習得から事業化までの時間は高知大学の研究室史上、最速だったそう。

生命のかたちを慈しんで

アコヤ貝大量へい死の要因は特定されていませんが、温暖化にともなう海水温の激しい変化が一因とも言われています。真珠の形がふぞろいになるのは、貝がストレスを感じる時。海の環境が厳しくなれば、ふぞろいが生じる可能性も高くなるのです。

ただ真珠はもともと、貝がつくりだす結晶です。ならば、ふぞろいなのもあたりまえ。いきものらしさが溢れる有機的なかたちはとっても魅力的で、見つめていると愛おしみが湧いてきます。

「この子たちを見いだしてくれてありがとうね」

真珠の個性に魅了されていると、佐藤さんのお父様・宏ニさんが声をかけてくれました。これまでふぞろいな真珠は主に海外向けの輸出や加工原料として入札会に出品してきましたが、ほんとうは高級真珠と同様、わが子のように大切に育ててきたもの。そんな生育者の愛情が言葉に滲みます。

それぞれに個性豊かなふぞろいパール(少しいびつなバロックタイプ)。宝飾品としての加工は佐藤さんとお父様の宏ニさんが担います。きめ細やかにあこや貝をお世話するだけでなく、手先も器用なお二人。
激しく変形している羽つのパールはピンブローチにしたり、子どもとおそろいで身につけたり...身近に親しめる真珠の楽しみ方が広がります。

「羽つのパールの楽しみかた(PDF)」はこちら

ちなみに真珠養殖の好適地とは、山と海が近接した波の穏やかな入り江、まさに明浜のような場所です。

段々畑をつくる石灰質の山から栄養に富んだ水が海に注ぎ、アコヤ貝がカルシウム層として真珠を形成する...真珠には成分として、海だけではない、山の恵みも含まれているんですね。

海と山の距離が近いからこそ、山で使う農薬も直に海に影響します。無茶々園の環境保全型農業は、明浜の真珠養殖を支えるものでもあるのです。

人が手をかけて育てる、海と山の恵みの結晶。だから真珠の輝きは力を持つのかもしれません。形成過程を知ると、真珠がまんまるになることが奇跡的にも感じられ、生命がつくるかたちに自ずと敬意が湧いてきます。

生命のかたちを慈しみながら、ふぞろいだからこそ、普段着で自然体の、「いつもの私」のそばで楽しみたい。ふぞろいパールはそんな、新しい真珠とのかかわりかたを開いてくれる存在ではないでしょうか。

取材に伺った企画担当の松山も、ふぞろいパールに魅了された一人。明浜の海で着用イメージを撮影し、「多くの方にふぞろいの魅力を伝えたい」と語る。
山に海が入り込むような明浜の地形。佐藤さんの工房は入り江にできた集落の海岸線にあります。
それぞれに個性の感じられる真珠たち。これでもふぞろい(!)
フジツボそのほか付着物を丁寧にこそぎ落とす「貝掃除」。陸上での掃除は年に3回ほどですが、船の上での掃除は10日に1回。海水温が高くなれば低いところへ、赤潮が発生すれば避難と、常に海の状態と貝の様子を気にかける、子育てのような仕事だそう。
水中にいる「すじ青のり」は自由にうごきまわる動物のようで、乾燥して粉末になったお馴染みの青のりとは全く違う姿を見せてくれます。
「きれいで見ていて飽きないんですよ」と佐藤さん。技術習得から事業化までの時間は高知大学の研究室史上、最速だったそう。
それぞれに個性豊かなふぞろいパール(少しいびつなバロックタイプ)。宝飾品としての加工は佐藤さんとお父様の宏ニさんが担います。きめ細やかにあこや貝をお世話するだけでなく、手先も器用なお二人。
激しく変形している羽つのパールはピンブローチにしたり、子どもとおそろいで身につけたり...身近に親しめる真珠の楽しみ方が広がります。

「羽つのパールの楽しみかた(PDF)」はこちら
有限会社河部水産・社長加藤忠則さん

株式会社 地域法人無茶々園
理事・真珠部門責任者
G.I.A(米国宝石学会)G.G
佐藤和文さん

無茶々園の理事であり佐藤真珠の三代目。宝石鑑定士の資格を持つ稀有な養殖家。世に出回る真珠の質と価格バランスについて、もやもやすることもあるとか。「真珠で大切なのは“照り”。形はふぞろいでも、輝きはほんものです」

有限会社河部水産・社長加藤忠則さん

株式会社 地域法人無茶々園

1974年からできる限り農薬を使わない農法で柑橘類を中心に生産する、環境保全型農業の先駆け的存在。1993年に株式会社を設立、真珠やちりめんなど海の産物や、みかんジュースなどの加工品、コスメブランド等、地域の強みをいかした品目を取り扱い、地域主導の産業形成と主体的な地域づくりを支える。廃校を利用したオフィスにはソーラーパネルが設置されている。

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