瀬戸内海中部に浮かぶ、全周約26km、人口3,000人程の「大崎下島」。この島はかつて、柑橘栽培100年以上の歴史を誇り、日本有数の収穫量を誇るレモンの生産地として、「黄金の島」と呼ばれていました。現在稼働している柑橘畑は、全盛期の3分の1程度にまで減ってしまったそうですが、現在もこの地で、化学合成農薬と化学肥料の使用量を減らし、防腐剤やワックスを使っていない皮まで食べられるレモンを農家の方が育てています。「とびしま柑橘工房」では、大崎下島をはじめ、安芸灘とびしま海道の島々で生産された形などが規格外のレモンを使って、お菓子や調味料など、とびしま産レモンの美味しさを手軽に味わっていただけるような商品作りをしています。
こだわって栽培したレモンの美味しさをそのまま味わっていただけるよう、加工にあたっては、様々な工夫がされています。教えていただいたのは、とびしま柑橘工房の代表取締役・久保聡さんです。
まず、島で収穫した生のレモンを仕入れたら、果汁、レモンの皮、表皮(黄色い所のみ)に分けて保存するとのこと。皮と果汁に分けて保存することで苦みや冷凍による変化を最小限に抑えることができるそうです。「酸味料や香料を入れていないため、果汁や皮の味がそのまま製品に反映されるので、こだわっている点です」と久保さん。
また、レモン果汁を搾るときは、冷凍したレモンを解凍して使用すると、皮の苦みが果汁に入ってしまうということもあり、生のまま搾汁しているそう。さらに、ギュッと搾らないことで苦みの少ない果汁になるとのことでした。
それを裏付けるように、レモネードベースの原料になっているレモン果汁を味見させていただくと、えぐみが全くなく、とてもスッキリした味わいです。
搾汁した後の皮は、房を機械である程度除去し、その後、人の目で確かめながら、手作業で残った房をとってから、原料として保存されます。どこまでも丁寧な作業に頭が下がる思いです。
「とびしま柑橘工房」の代表的な商品に米粉を加えたメレンゲにレモン果汁を加えたお菓子「れもんげ」があります。こちらの商品は、民間企業20社以上で運営している「おもてなしセレクション」で2017年に金賞を受賞、同じ年に、雑誌のお取り寄せグランプリでも果樹園デザート部門でグランプリを受賞するなどの受賞歴がある逸品です。こちらの製造の様子を見学させていただきました。
メレンゲ作りはとにかくスピード勝負。機械で作るよりも、手作業でどんどん作っていった方が早いということで、スタッフの方がテキパキとメレンゲ作りをされていました。
「れもんげ」には細かいレモンの皮が混ぜ込まれています。メレンゲにレモン汁を入れることで、メレンゲが安定することはよく知られていますが、レモンの皮を入れるのは珍しいとのこと。レモンの皮に含まれる油分によってメレンゲの泡がしぼんでしまうため、配合割合がポイントだそうです。
オーブンは温度と合わせて湿度も管理できるものを使用し、空気を抜きながら焼くことで軽い食感を実現しています。4台のオーブンをフル稼働し、オーブンの特性に合わせて温度を設定しているとのことです。今では1日約1,000袋をパック詰めしていますが、久保さんによると、「失敗を繰り返し、安定したものが作れるようになるまで1年半かかった」そう。
試行錯誤して作られた「れもんげ」を一粒口に入れると、実に軽い食感のメレンゲがあっという間に溶けてなくなり、口いっぱいに爽やかなレモンの香りが広がります。
次に久保さんに案内していただいたのは、レモンケーキやレモンラスク、生塩レモンなどの製造を委託している「自然派工房 千夜一夜物語/Arabian Night」の代表取締役・秦利宏さんのところです。
お2人はなんと小学生の時から(!)同じ道場で鍛錬を重ねた空手仲間だそう。
可愛らしい工房からはレモンの良い香りが漂っています。ちょうど、できたてふわふわのレモンケーキができたところでした。ここから時間をおくと、生地が落ち着き、しっとりとした食感になるそうです。
「レモンは色々な素材と繋がれるところがおもしろい」と秦さん。「レモンはメインにもサブにもなることができ、無限の広がりを感じる」と、目を輝かせて話してくれました。
元々は鉄工関係のお仕事をされていた久保さん。
「とびしま柑橘工房」の始まりは、ご近所の農家の方が規格外のレモンをもってきてジャムを作ったのがきっかけだったそう。
農家の方々と接する中で、生産者の高齢化や後継者不足、外国産柑橘類の輸入販売による国産柑橘価格の下落など、地元の農家の方々が抱える深刻な課題を目の当たりにしました。「今のままでは100年以上島々を支えてきた、重要な伝統産業がなくなってしまう」と感じ、柑橘の中でもレモンに注目して、幼馴染で洋菓子職人の秦さんと一緒に、全国に広島レモンを広める活動を行うプロジェクト「とびしま柑橘倶楽部」を発足させました。
「もっと良い商品を作るにはどうすればよいか一つ一つ課題を解決していくのは鉄工の仕事と同じ」と久保さん。
とびしま産のレモンを全国に広め、地元産業を盛り上げていく活動は、未来に向かってこれからも続いていきます。
記事の中では紹介しきれませんでしたが、他にもジャムの製造の様子や、柑橘の皮を砂糖漬けにしたピール等を見せていただき、柑橘の爽やかな香りに癒やされました。パッケージもかわいらしく、魅力的な商品がたくさんあるので、お土産を買うのにも迷ってしまいます。どの商品においても、生のレモンを使っているからこそ出せる豊かな香りと、久保さんの深い地元愛が印象的でした。
「とびしま柑橘工房」の商品をおいしくいただくことが島の伝統産業を守ることにつながります。らでぃっしゅぼーやのWebサイトやカタログで商品をみかけた際は、ぜひお試しください。