文:神崎悦子 写真:甲田和久
「それが自然だから」。今回取材した、有機栽培あゆみの会の生産者・伊藤晴夫さんと、一緒に栽培をしている妻の洋子さん、そしてあゆみの会事務局・丸山訓(さとる)さんの3人から声を揃えて返ってきた、素朴な疑問への答えです。「見た目で判断する人もいるけど、中身の味は変わらないんだけどねぇ」(晴夫さん)、「工場みたいに型に入れてつくるわけじゃないしね」(洋子さん)。生産者である伊藤さんの言葉を受けて、丸山さんが話しを続けます。
「種ひとつひとつの状態も違います。種まきのタイミング、土などいろいろな環境や条件によっても変わるので、すべてのコントロールをすることはできません。たとえば、一般的に言うと、土の中にある小さな石ころに根っこが当たっただけで曲がってしまうんです」
そして、ふぞろいの出る大きな要因のひとつが、年々過酷な状況になっている気候です。いままでの経験からでは予測できない台風の動き、急激な温度変化、長雨後の日照り……。
「7、8月は秋冬に収穫するにんじんの種まき時期です。去年(2020年)のことですが、7月中は長雨で、8月1日になったらいきなり晴れて気温が一気に35℃以上に上昇。そのあと、20日間ほど雨が降らなかったんです。タイミングよく種まきが出来たところは良かったけど、1、2日遅くなった畑は発芽が悪くなってしまいました。ちょっとした違いでぜんぜん変わってしまうんです」。でも、だからこそ生産者さんも日々の工夫を欠かしません。
「厳しい気候条件ですが、ふぞろいが出る確立を少しでも低くするために土作りをしたり、潅水の時期や量のポイントをおさえたりなどいろいろと工夫をしています!」
それでも、どうしても出るふぞろい。
「ふぞろいでも味は変わりません。ぜひ、畑が生み出す個性ある形を楽しんでいただければと思います」と丸山さん。
あゆみの会では、規格外のにんじんもほとんどすべてを、需要の高いジュースに加工して無駄なく使っています。
また、昔は多くの種を植えて種同士を競わせ、弱いものを“間引き”するという栽培方法もありましたが、現在、特ににんじんに関してはそういった栽培方法はほぼなくなり、順調に生育した場合の栽培中のロスはゼロです。
さらに、あゆみの会ではらでぃっしゅぼーやとともに、家庭から出た生ゴミを乾燥加工して畑へと戻すシステム「エコキッチン倶楽部」の取り組みを行なっています。これは、作る人、届ける人、食べる人で実現した小さな循環型社会ですが、家庭から出る食品ロス(食べられるのに捨てられてしまう食品)も含めた食品系のゴミを少しでも減らそう、という意識を高めるものにもなっています。
農家の4代目になる伊藤さんは、農業歴約40年のベテラン。仕事仲間から、あゆみの会に誘われたことが有機栽培をはじめるきっかけになりました。「有機栽培はいいよ!土質がぜんぜん違ってくるね」
あゆみの会の生き字引的存在。あゆみの会は、1989年に有機栽培を目指し結成された生産者団体。現在は、千葉県・茨城県を中心に100を越す生産者・生産グループと共に活動をしています。