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幸せがめぐる経済へ
サーキュラーエコノミー入門

2022年からはじまった「ぐるぐるRadish」はサーキュラーエコノミー(以降略:CE)を推進するプロジェクト。とはいえCEって何?リサイクルやリユースとの違いは?などまだあまりよく知られていないのが実情です。日本における第一人者の安居昭博さんはCEについて先進国オランダとドイツで学んだ若き研究者&実践者。安居さんの暮らす古都・京都を訪ね、CEの基本と京都ならではの実践について教えていただきました。

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暮らしに心地よい循環を

 京都御所に並行する通りにあるゼロ・ウェイストな量り売りのお店「斗々屋(ととや)」。安居さんとの待ち合わせでうかがった店舗では、お米やナッツ、海苔などの乾物、お酢やソースなどの液体まで量り売りされていて、包装のゴミが出ません。また容器と会計用のはかりはセンサーで繋がっていて、スムーズに買い物ができるよう設計されています。「サーキュラーエコノミーという言葉は耳慣れないかもしれませんが、物を捨てず大切にする価値観はずっと昔からあったもの。古き良き価値観を現代の技術でアップデートするところにこれからの価値がある。CEは人と人、人と自然との繋がりを取り戻してくれる、皆にとって良い仕組みづくりだと思います」

液体まで量り売り

液体まで量り売り

スムーズに計量・会計できるセンサー連動のはかり

スムーズに計量・会計できるセンサー連動のはかり

お菓子とフェス古都京都での実践

 2021年にサーキュラーエコノミー(CE)についてまとめた本を出版した安居さん。本以外の形でもCEを伝えたいと2022年には「八方良菓」という屋号で京都の食品企業のロス食材を使ったシュトレンの開発と販売を始めました。
 「課題に向き合うほど地域の有機的な繋がりができて、おもしろくて。老舗こそ変化に敏感で、革新的で持続的なものへの関心が高いとも感じます」
 そうした活動から「おもしろい若者がいる」と京都出身の音楽家・ロックバンド「くるり」の岸田繁氏に紹介され、くるり主催のフェス「京都音楽博覧会」では「資源がくるりプロジェクト」を共同開催。京都の料理人らとロス食材でアイスクリームを開発・販売し、食べ残しなどの生ゴミを堆肥化するコンポストを会場の梅小路公園内に設置しました。「まず音楽イベントで実証実験をして、その後は飲食店や商店街で出る生ゴミを投入していく予定です。小さく始めて広げていけたら」。

八方良菓の京シュトレン

「八方良菓の京シュトレン」。原料の約30%にロス食材を使用。製造は市内の福祉作業所が担当している。

左上/シュトレンの原料になる梅酒の梅の実。右上/おから。右下/生八ツ橋の切れ端。右下/酒かす。

左上/シュトレンの原料になる梅酒の梅の実。右上/おから。右下/生八ツ橋の切れ端。右下/酒かす。いずれも京都らしい食材。

京都音楽博覧会のステージにて、岸田繁氏とトークする安居さん

京都音楽博覧会のステージにて、岸田繁氏とトークする安居さん。以前からフード出店者にはリユース可能な食器の使用が求められるなど岸田氏の「開催前よりも場を良くして返したい」という想いが様々に反映されてきた。

公園内に設置されたコンポスト

公園内に設置されたコンポスト。堆肥化されたものは園内の樹木育成に使われる予定。

CEの先進国オランダの取り組み

 安居さんがCEに興味を持ったのは、世界初のCEジーンズ「マッド・ジーンズ」や自分で修理できるスマートフォン「フェアフォン」など、オランダにおける様々なCE企業の取り組みが革新的で楽しそう!とワクワクしたから。「厳密な定義づけを気にする人も多いかと思いますが、2050年までに全てをCE化すると掲げているオランダ政府は『それがどんな社会なのかはわからない』とも言っていて。こうじゃなきゃ、これはだめというよりも、良いと思うことからまずやってみるほうがいいと思うんです」。地球に良いことはきっと心にも心地良い。まずはワクワクすること、自分で気になったことから、一緒に一歩踏み出してみませんか?

フェアフォン

「フェアフォン」。個人の修理する権利を保障している

マッドジーンズ

「マッドジーンズ」。タグは革ではなくペイントで

安居さん直伝 サーキュラー
エコノミーのキホン

「捨てる」直線経済から「生かす」循環経済へ

 サーキュラーエコノミー(CE)とは、直訳すれば「循環型経済」。簡単にいうと「廃棄が出ない仕組みづくりを行うことによって、経済と環境両方にメリットをもたらす新しい経済モデル」です。現在の経済システムは資源を取ってつくって捨てる直線的なもので、リサイクルやリユースは行われていますが、あくまでも大量生産・大量消費で生じるゴミに対しての対処法な立ち位置です。CEでは、『はじめからゴミが出ないように』ビジネスモデルを設計します。たとえばはかなくなったジーンズは捨てるのではなく、企業に返却してもらい、リサイクルで素材化して再生産する。返却してもらえるように支払いは月額制のリースやデポジットに。再生産しやすさを考えて革のラベルはなくしファスナーはボタンに。そうして廃棄が出ないよう仕組み全体を設計するのが最大の特徴です。

サーキュラーエコノミー

キーワードは3つの“P”

これまでの社会では、長期的というよりは短期的な経済合理性に偏った仕組みづくりがされてきました。その結果、経済的には豊かになった一方で、持続性が危ぶまれるほど環境負荷が高くなってしまった。また人が豊かに生きるために大切なことは、経済合理性だけでは判断できません。ProfitだけじゃなくPlanetとPeopleの3つのP、これらのバランスがとれた状態が重要で、CEはその実現のための手段です。今キャンプや山登りを楽しむ人が増えていますが、それはお金のためではなく幸せのための行為ですよね。自然環境が悪化すればそれも不可能になってしまう。CEは私たちが心地よく感じる状態と経済を両立する方法論。けっして経済発展を否定するものではなく、CEによる無駄の見直しの結果、増収やコスト削減に繋げている企業も多くあります。

3つのP

あらゆるものをめぐらせる

 バタフライダイアグラムはCEの実践に優先度の高い方法を教えてくれるものです。外側にいくほど環境にも経済にも負荷が大きく、たとえばリサイクルには加工施設や輸送、エネルギーが必要ですが、修理して使い続けられればそれらは必要ありません。内側にある方法で解決できないか、順に検討していくことで最適な方法を採ることができます。右側に技術系のサイクル、左側に生態系のサイクルが分けてあるのもポイントです。自然素材と化学素材が混ざっていると再資源化が難しくなりますが、綿や麻などの天然繊維100%であれば服も土に還すことができます。自然素材とそうではないものをしっかり分け、化学的なものであっても再資源化しやすいよう単一性を高めていくことが今進められています。あらゆるものを資源とするCEの発想は持続的なビジネスやライフスタイルと相性が良く、新型コロナウイルスのパンデミックやロシアのウクライナ侵攻が起きた現在ますます注目を集めています。

バタフライダイアグラム
安居さんにおたずね!
ぐるぐるRadish
どうでしょう?

「ぐるぐるRadish」の取り組みについて、また、今後どうしたらサーキュラーエコノミー(CE)がもっと普及していくのか、企画担当者の松山が安居さんにインタビューしました。

全国規模ならではのインフラや情報網も大切です

松山 サーキュラーエコノミー(CE)の実践について考えた時、一般的には「企業に戻す」流れがないことに気づきました。らでぃっしゅぼーやでは自社配送網を持っているので、エコキッチン倶楽部をはじめとする循環型の活動ができています。さらに踏み込みたい場合には全国規模が適さないこともありますが、まずは参加や気づきのきっかけになれたらと思っていて。

安居 確かに地域でなければできないこと、地域でやるほうが適したことがある一方、全国規模ならではのインフラや情報網も大切です。布団の丸洗いを伏流水と石鹸だけでやってくれるサービスも美濃焼の食器を一部再生原料でつくる「トリップウェア」も初めて知りました。凄い!

エコキッチン倶楽部
トリップウェア

トリップウェア らでぃっしゅぼーやの配送網により、不用食器を回収、産地で粉砕。岐阜県・美濃焼産地の有志企業が集い、原料の20%にリサイクル資源を活用した再生陶土の器をつくります。

やって楽しい、食べておいしい実感のある体験を

松山 今後どうしたらもっとCEが浸透していくでしょうか?

安居 オランダはCEが進んでいる国として取り上げられますが、国民の大多数が概念に詳しいわけではないんですよ。アクティブに取り組んでる人がいて、一般の人は自然とそれを使っているのが近いんじゃないかな。

松山 確かに今回あらためて、廃棄が出ないようにはじめから全量買取の作付け契約を行い、段ボールもリユースしている「めぐる野菜箱」はCEだったんだと気づきました。使うサービスが自然とそうなっていることが理想です。

安居 あとはやってみてラクになる、楽しい、おいしい…実感のある体験ができるといいですよね。

松山 体験するって大切ですね。その体験をどうつくっていけるか、これからまた考えていきたいと思います。今日はありがとうございました!


安居さんの著書、企画チームの皆で熟読しています。どのページにも大事なことが書いてあるので、ページを折りすぎて本が分厚くなっています(笑)。楽しさやワクワクを通じてCEを広げていけたら。 松山

CEで生まれたものが実際に格好良いとかおいしいことは大切ですね。CEは目的ではなく手段なので、言葉が広まる以上に、本質に気づいた人が本質的実践をしていくことが大事なんだと思います。 安居

インタビューの様子
安居昭博 (やすい あきひろ)さん

Circular Initiatives & Partners

安居昭博 (やすい あきひろ)さん

ドイツ・キール大学修士課程卒業。2015年~2020年オランダ・ドイツを拠点にCEの視察イベントやセミナーを開催、2021年より京都市在住。著書に「サーキュラーエコノミー実践:オランダに探るビジネスモデル」

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