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知床の森と暮らしをつなげてエゾ鹿を山の恵みに

2005年に世界自然遺産に登録された「知床」。野生動物が身近に感じられる一方で、エゾ鹿による様々な獣害が起きています。現在は専門委員会(※1)が算出する個体数管理に基づいた狩猟が行われていますが、ただ駆除するのではなくおいしくいただくことで、エゾ鹿を害獣ではなく森の恵みに、日々の食卓を森林保全につなげたい。そんならでぃっしゅぼーやとの取り組みについてお話を伺うべく、エゾ鹿の食肉加工を行う「知床エゾシカファーム」を訪ねました。

※1 知床世界自然遺産地域科学委員会

  • SDGs 11
  • SDGs 12
  • SDGs 15

樹皮剥ぎによる森林への影響

 知床国立公園内にある知床自然センター。雄大な森のなかをよく見ると樹皮の一部がツルツル(!)の木があちこちに。エゾ鹿が食べた跡だと知床財団の岡本さんが教えてくれました。「樹皮を全周食べられた木は枯死してしまいます。オヒョウ、ミズナラ、キハダなどエゾ鹿が好む広葉樹が減少していて、森林生態系への影響が考えられます。北海道では官民が協力してエゾ鹿の数を一定に抑える個体数管理に努めており(※2)、今はいっとき見られなかったエゾスカシユリが咲くなど植生の回復も一部見られるようになりました。ちょっとした野原でも生態系は変遷しているんですよ」。

「北海道エゾシカ対策推進条例」、「北海道エゾシカ管理計画」など

(公財)知床財団 企画総務部長 岡本征史さん

樹皮が剥がれた樹木
知床の自然保護活動を行う(公財)知床財団 企画総務部長 岡本征史さん

エゾスカシユリ

エゾスカシユリ

しれとこ100平方メートル運動ハウス

しれとこ100平方メートル運動ハウス。知床の森づくりについて学べる

多いときでは夜中に3件も
交通事故処理の心痛から鹿肉加工を始めました

夜には国道がエゾ鹿だらけに

 1998年〜2005年、知床国道沿線でエゾ鹿と車の接触事故が多発。「車に轢かれた鹿に心を痛めてエゾ鹿の捕獲と食肉加工を始めた」と話すのは「知床エゾシカファーム」の代表、富田勝將さんです。実はこちらの母体は地域の建設会社。国道の維持管理を担うなかで、夜中に何度も事故処理に呼び出されていたそうです。「当時は車が通れないくらい道路がエゾ鹿だらけでした。これはなんとかしないといけないなあと」

畑や庭木まで食べにくることも

「小さい頃は鹿を見ることはほぼありませんでした」と富田さん。

「鹿は妊娠率が90%以上の繁殖力の高い動物(※3)。雪が積もると歩けずに息絶えるのですが、温暖化で雪が減ってそうしたことも減って。道路沿いの芝が好きで、畑の作物や、一般家庭の庭木まで食べてしまいます。あとはやはり森林の被害が大きい。木が枯れることは鳥や小動物にも影響しますし、実生も食べ尽くすので山が更新しづらくなってしまうんです」

※3 「北海道エゾシカ管理計画」(第4期)

道路沿いに出没するエゾ鹿

道路沿いに出没。人の生活圏と鹿の距離がとても近い

農業被害

農業被害による経済的影響は北海道全体で44億8千万円にも(※4)。

北海道庁「野生鳥獣被害調査結果(令和3年度分)

ただの駆除ではなく山の恵みとして

 数が増えすぎて様々な被害をもたらしているエゾ鹿ですが、明治期には乱獲により絶滅の危機に瀕したこともありました。現在はハンターの高齢化などから目標とする個体数管理が難しい現実も。急速に変化する人の社会と自然の共生は、常に向き合い続けるべき課題なのだと考えさせられます。

「ただ、駆除するだけではゴミになってしまうんです。『知床エゾシカファーム』がサイクルに入ることで、鹿を山の恵みとして食べられる。それはとても大切なことだと思います」

富田勝將さん (株)知床エゾシカファーム代表取締役社長

エゾ鹿を安心して食べていただくために

ジビエで気掛かりなのはその安全性。安心して食べられる、
知床エゾシカファームならではの狩猟からお届けまでの流れをお伝えします。

1

囲いわなやハンターによる狩猟

知床エゾシカファームでは、山に食べ物が無くなる冬の間に、囲いわなを使って自社でエゾ鹿を狩猟しています。夏に森をモニタリング、鹿の通りの多い場所に大型わなを設置。わなにはカメラがついており、エゾ鹿が入るとセンサーが感知、囲いを落とすことで一度に多くの頭数を捕獲します。夏は有害駆除対象としてハンターによる狩猟が行われます。いずれも完全なる自然の環境で育った鹿たちは、知床エゾシカファームの養鹿場に運ばれます。

大型わな

大型わなを設置

カメラとセンサーで捕獲

ハンターによる狩猟

2

ファームで過ごす

食肉加工の鮮度管理には計画的な解体が必要なため、知床エゾシカファームでは養鹿場で一定期間鹿を育成しています。餌は牧草と、甜菜糖を作る際のビートの搾りかすです。育成による健康状態の変化はほぼなく、野生で育った鹿と肉質は変わらないのだそう。繁殖してしまわぬよう、一年以上は飼育をしないようにしており、養鹿場はあくまでも期間限定の待機場。山の恵みを安全においしくいただくための工夫から生まれた仕組みです。

鹿
鹿

一定期間鹿を育成

3

加工と出荷

ジビエの臭みの原因の多くは「血」なので、屠畜後は迅速に血抜きを行います。その後は全ての内臓の病変の有無をチェックし、一部でも病気が見つかった場合は個体そのものを加工から除外します。ロース、モモなど部位ごとにさばいていくのは職人による手仕事です。その手さばきは見事でこちらもスピーディー。最後は部位ごとにパックし、解凍時にドリップの出ない「アルコールブレイン凍結」で冷凍。全品金属検査を経て出荷されます。

解体

部位ごとに解体

鎮魂碑

加工場の外に立つ鎮魂碑。いのちをいただく重みを感じます

安全性を追求して

「とにかく安全性を第一に追求しています。そうすると結果的においしさもついてくるのかなと」と富田さん。作業場の温度は常に20℃以下に、作業時間も冷蔵庫での保管時間も短く。衛生管理を徹底している知床エゾシカファームでは北海道HACCP認証を取得しており、2023年には網走地方食品衛生協会より優良事業所として表彰を受けました。細心の注意のもと手間暇をかけて加工されるエゾ鹿ですが、食肉になるのは身体全体のわずか2〜3割ほど。鹿肉はほんとうに貴重な山の恵みなのです。

鹿肉料理を楽しもう

実はクセが少なく食べやすい旨みと鉄分たっぷりの鹿肉

衛生管理された環境と確かな加工技術をもって提供される鹿肉は、他の家畜と比べてもクセが少なく食べやすいものです。鉄分たっぷりの赤身には、山の中を駆け回っていたいのちの力強さが凝縮されています。同じく自然の力を感じる薬味やスパイスを合わせながら、おいしさの奥にある力強さをじっくり味わってみてください。

エゾ鹿肉 おろしぽん酢焼き肉

雑味のない味わい エゾ鹿肉 おろしぽん酢焼き肉

エゾ鹿肉 ハンバーグ

くどくないのに肉感しっかり! エゾ鹿肉 ハンバーグ

鹿肉は、牛肉や豚肉に比べて高たんぱく質&低カロリー!

栄養成分の比較

アウトドアシーンでも楽しもう

登山やピクニックのおともに『知床の森を守る山ごはんセット』

『知床の森を守る山ごはんセット』は、常温で持ち運べるレトルトの「エゾ鹿キーマカレー」と「野菜なんでもピクルスの素」のセット。キーマカレーのレシピ監修は北海道のイタリアンレストラン『テルツィーナ』のシェフによるもので、スパイスの効いたおいしさが身体に染み渡ります。汁を切ったピクルスを一緒に持っていけば、野菜たっぷりのカレーセットのできあがり。野菜が不足しがちな外ごはんに嬉しいセットです。野生の肉を食すことは、エゾ鹿が生きていた森と直接つながること。外で食べるごはんのおいしさ、緑の心地よさの体感は、森林環境保全の重要性と深いところでつながっているはずです。山でなくても、近所の公園でも庭やベランダでも、ぜひアウトドアで食事をしてみてください。

エゾ鹿キーマカレー

汁は切って持っていこう!

ゴミはまとめて持ち帰ろう!



エゾ鹿肉のジンギスカン

鹿肉は羊肉にくらべて臭いが少ないので、羊肉が苦手な方でも肉の旨みが味わえるジンギスカンをお楽しみいただけます。北海道では外で過ごすのが気持ち良い季節には、ビアガーデンやオープンテラスでジンギスカンを楽しむ人々の姿が見られます。ぜひ皆さんも屋外での鹿肉ジンギスカンにチャレンジしてみてください。

エゾ鹿肉のジンギスカン
「知床の森を守る エゾ鹿」シリーズ


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