180年の蔵に棲みつく微生物が醸す独自の味わいの醤油 松本醤油商店 社長 松本公夫さん(右) /専務 松本勇一さん(左)

2017.5.8

都心から1時間ほど、蔵造りの町並みで知られる埼玉県川越市。良質な小麦と大豆ができ、水にも恵まれたこの地で、250年の長きにわたり醤油をつくり続ける松本醤油商店。
今なお江戸時代につくられた蔵と木桶で醸す醤油のおいしさに迫ります。

らでぃっしゅぼーやとの
出会いが大きな転機に

「はつかり醤油」でおなじみの松本醤油商店。らでぃっしゅぼーやでは創業当初、松本醤油商店の醤油を使った加工品を扱っていました。その縁で松本醤油商店を訪問した当時の代表が、江戸時代に建てられた醤油蔵を見て「うちの醤油をつくってほしい」と依頼したのが「はつかり醤油」づくりの始まりです。

「当時は、輸入物や北海道産地の原料でした。地元産原料という要望に沿うには2年以上かかりましたが、気長に待ってくれました」
そう話すのは松本醤油商店社長、松本公夫さん。川越は元々、水に恵まれた土地で、小麦粉や小麦の名産地でした。「地元産の原料にこだわるようになり、進む道が見え、醤油に特徴を出せるようになった。この出会いが大きな転機」と言います。

天保元年(1830年)に増設された醤油蔵と木桶は、今なお現役で活躍。醤油蔵に棲みつく微生物は、その土地の気候、醤油づくりの年月、蔵や桶の管理の仕方などによって、独自の生態系をつくり、醤油の味や香りに個性を出している。

醤油をつくるのは微生物、
その手助けをするのが職人

一般的に醤油は、大豆と小麦でつくった麹に食塩水を加え、発酵・熟成させます。この工程でとくに重要なのが麹づくり。蒸した大豆と煎った小麦に種麹を混ぜ、室の中で3日間、麹菌を育みます。松本さん曰く、「ほかでどんなに頑張っても、ここで失敗したらおいしい醤油はできない」そうで、温度と湿度管理がカギだと言います。機械で管理する今でも、夜中に起きて目で確認するそうです。

麹ができあがると、食塩水とともに桶に入れます。麹菌に加え、乳酸菌や酵母菌なども働き、時間をかけて旨みや甘みが醸成されます。ステンレスなどのタンクに仕込む場合は純粋培養した菌を使用しますが、松本醤油商店のような古い蔵や木桶には、その環境に合ったかたちで棲みついた微生物が働きます。
「醤油をつくるのは微生物。職人は微生物が働きやすいように環境を整えるだけ」
これが松本さんの醤油づくりの考え。桶内の状態を見極め、攪拌をして必要量の酸素を桶に送り込みます。微生物と職人の合わせ技で蔵独自の味わいを醸します。

かつては、蔵を手放して郊外に工場をつくる話もあったそうですが、「ボタンを押したら醤油ができるなんて、つまらないでしょう」と、松本さん。蔵とそこに棲みつく微生物があったからこそ、この土地、この蔵ならではの味わいの天然醸造醤油をつくり続けているのです。

蔵を守るためにも
知ってもらうことに尽力

「はつかり醤油」は、仕込みに塩水ではなく1年かけて熟成させた生醤油を使う再仕込み製法です。旨み成分が増え、コクや味わい、香りが豊かに仕上がります。
醸造期間も2年と、長い時間をかけてつくられています。(一般品一例の醸造期間は6ケ月)

これが「はつかり醤油」のおいしさの秘密です。

現在、息子の勇一さんは醤油による町おこしにも力を注いでいます。
「天然醸造醤油を使ってもらうきっかけづくりに尽力していきたいですね。どんなにおいしい醤油ができても、知って使ってもらえなければ、つくり続けられず蔵を守ることもできませんから」と、勇一さん。
守り、受け継がれた伝統に、その魅力を発信する力が加わり、今後への期待が膨らみます。

おいしさのヒミツ

松本醤油のこだわり

  • 大豆(左)と小麦(中)は地元・川越を中心に埼玉県産のものを、塩は天日塩(右)にこだわり試行錯誤の結果選んだオーストラリア産を使用。大豆は事前に加熱して砕いて蒸す。こうすると、しっかり分解されて旨みが出る。

  • NK缶といわれる大きな圧力鍋で蒸された大豆に、煎った小麦を入れてよく混ぜる(左)。種麹をふりかけ(右)、まんべんなく麹菌が繁殖するように途中で麹をほぐしながら、3日間かけて麹をつくる。

  • 桶で熟成。状況に応じ、桶内を攪拌する「櫂入れ」によって、菌が必要とする酸素を送り込む。1年以上の歳月がおいしい醤油を生み出す。

つくり手こだわりの商品

※時期の関係でお取り扱いがない、もしくは販売終了している場合がございます。予めご了承ください。

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